C&C ひきこもりオンラインハンドブック
ひきこもり当事者が親を介護する？　8050問題の新局面への根本的な対応についての考察

日本が完全な高齢社会になるにつれて、従来はあまり目立っていなかった事件を目にすることが増えるようになってきました。非常に高齢の親を自身もそれなりに高齢なひきこもりの子供が自宅で介護しているが、その介護が適切でなく親を死なせてしまったケース、または親が亡くなった後で子供がそのまま遺体を放置してしまったケースです。こういったケースに関して、保護責任者遺棄致死罪や死体遺棄罪の疑いがあるとして逮捕起訴される場合があることが報道によって知られています。このような不幸な事態を防ぐために、何かできることがあるでしょうか。

一般に見落とされていると思われることは、こういったケースでは子供の側にコミュニケーション能力の欠如がある可能性です。報道レベルでも、当事者が社会的に孤立していたという事実は指摘されてきています。なぜなら社会的に孤立していなければ、上のような不適切な行為はあり得ないと思われるからです。しかしながら、なぜ社会的に孤立してしまうのか、という点でのさらなる反省はあまり見られません。ここでコミュニケーション能力の欠如は、そのような社会的孤立をさらに説明するための要因として挙げられています。

コミュニケーション能力の欠如が、本人の責に期すべき事由によって生じているかどうかが、社会的には重要になると思われます。というのも、本人が良好なコミュニケーション関係にないのが本人のそれまでの積み重ねの結果であるとすれば、社会の側でできることはあまり無いからです。しかしながら、コミュニケーション能力は、本人のせいでなく低い場合もあります。それがコミュニケーションに関する障害、特に自閉スペクトラム症（ASD）が関係しているケースです。生まれつき（マジョリティとの間での）コミュニケーション能力が低く、そのことを親がカバーしている場合、親が高齢化した場合や親の死後に問題が顕在化するということは当然の成り行きと言えるでしょう。

社会の側でできることは、子供のコミュニケーション能力の欠如から生じる負担を親に押し付けることではなく、コミュニケーション能力が欠如している人に必要な支援を（親が健在なうちに）行うことです。介護や葬儀が適切に行われないという状況になってから初めて慌てるのではなく、最初から社会的孤立の背後にあるコミュニケーション能力不足に手当することです。その段階から社会的な関与があって初めて、親が高齢化によって状況をコントロールできなくなって後でも、不幸な事態を避けることができるようになるのではないでしょうか。

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