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結婚生活における自閉スペクトラム症(以下ASD)の人と定型発達(以下定型)の人との摩擦、そして定型の人がどのように振る舞うべきか、について解説したいと思います。他の記事で解説している通り、人間関係について、定型の人は、ASDの人と比較した場合に特有な見方を持っています。定型の人の人間関係についての把握には、ある種類の二層性ないし二重性があります。逆にASDはそれを一層的または一重的な理解を持っているのです。
ここで一層的または一重的と言っているのは次のようなことです。各人が各人の管理する領域を持ち、他の人の領域には干渉しない。干渉することがあるのは何らかのイレギュラーな事態であり、その場合でもできるだけ早く再度相互不干渉の状態への復帰が目指されるべきである。つまり、定型にのみ特徴的であるような人間関係の把握は、各人が各人の管理する領域を超えて、他の人の領域に干渉することもありうるような関わりを自然なものと捉えるということにあります。ASDの人と定型の人との結婚生活において、このような人間関係のモデルの違いは、どのように作用するでしょうか?
このようなモデルの違いについて意識的でなければ、定型の側はASDの人との結婚生活において両者の人間関係を二層的に設定しようとするでしょう。つまり、ゆるやかな役割分担をするとしても、その役割分担からはみ出たものについては二人で一緒に取り組む必要があると考えるし、定型の側が担当している事柄(例えば育児)について相手にも関心を持って欲しいと思います。残念なことに、そのような二層的な人間関係の把握を、ASDの側が共有できない場合があります。すなわち役割分担によって結婚生活における役割を一度分担した後は、相手がその役割を果たしているかどうかについてだけ関心を持ち、それ以上の細部には立ち入らないということです。逆にASDの人は自分の役割とされたことについては定型の人よりもずっと信頼性が高い仕方で実行することができます。定型の側で両者の間の人間関係について一層的に把握するように対応を変えれば良いのですが、そうでないと摩擦が起きる恐れがあります。
より特定の場面に絞って見てみましょう。定型と定型との間では、二層性は特に次の場面に現れます。それは一方が他方のために何かをやってあげるという場面です。両方とも定型の人の場合、何かをやってもらっている方は、何かをやってあげている方に対して、やってもらっている事柄について責任を手放したかのような態度を取らないよう気をつけます。手伝ってもらうことがあっても、基本的には自分が責任者なのだという立場を崩さないということです。それはその事柄について二層性を維持するということがそういった場合に定型と定型の間で規範として理解されていることだからです。ASDの人が定型の人に何かをやってもらっている場合に、ASDの側が両者の関係を一層的に見ていると、やってもらっている事柄についてのコミットメントを失いがちです。それは定型から見ると無責任に見えるという危険が出てくることになります。またコミットメントを失うと、そもそも相手が自分のために何かをやっているという関係性さえ無くなる場合があります。単に相手の役割になるということです。
結婚生活の中で特に、一方が他方のために何かをやってあげるという関係性に立つ場合が多いことは簡単に想像できます。その場合に定型の人がASDの人のために何かをやってあげるということを繰り返していると、ASDの人がそのことについてコミットメントを失い、結果としてASDの人が十分に感謝してくれないと定型の人に評価される恐れがあります。以上の理由により、ASDの人と定型の人との結婚生活においては、定型の側が両者の関係性を一層的に把握して振舞っていくということが大切になると言えます。
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