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夫婦間で生じる自閉スペクトラム症(以下ASD)の人と定型発達(以下定型)の人との間のミスコミュニケーションのうち、定型の側に生じる著しいストレスと孤立感を指して、カサンドラ症候群と呼ぶことがあります。ASDの人と定型の人とのミスコミュニケーション自体については、色々な記事で解説していますし、理解は比較的容易なことと思われます。しかしながら、カサンドラ症候群の主要な特徴であるところの当事者の孤立感についてはまた別な解説が必要かもしれません。
実のところ、ASDの人と定型の人とのミスコミュニケーションに関する様々な問題のうちで、カサンドラ症候群の特徴を成すのは、この孤立感に他なりません。この孤立感の中身は、当事者が他人に対して窮状を訴えても理解してもらえないということにあります。なぜ理解されづらいのでしょうか?
当事者が他の人に対して自分が抱えている問題を伝えるためには、問題を言語化する必要があります。普通の人が配偶者に対する(正当な)不満を語る仕方は、配偶者がどのような規範に抵触しているのかを特定するというものです。例えば、DVのケースの場合には、暴力や暴言を行使してはならないという規範に配偶者が違反しているということを指摘します。カサンドラのケースでも、当事者は、配偶者がどのような規範に抵触しているのかを語ろうとします。しかしこの場合には、配偶者がどのような規範に抵触していると主張することになるのでしょうか?
この点に関して、カサンドラのケースはDVのケースよりも問題の言語化が難しくなるという事情があります。それは、一般的に、ASDの人が定型の人よりも規範性が高いことと関係があります。ASDの人は既に明示された規範に対する順応性が定型の人よりも高いため、定型の側がASDの人が違反していると感じる規範を特定することが難しいのです。しかしこれは問題が存在しないということを意味しません。より言語化が難しい(しかし実践は容易な)複雑な規範にASDの人が違反しているかもしれないからです。すると真の問題は、言明することが難しい規範を言語化する負担が定型の側に重圧として感じられるということです。
そのような言語化と発見された規範に従うことはどちらも大変なことなので、実践的には夫婦間で(現状よりも)「距離を取る」ことが事態を改善させるための最適解であることが多いです。しかし、理論的には、ASDの人と定型の人との間でASDの人がどのような規範に抵触しているのか、規範に抵触しないために工夫できることはあるか、ということがより一般的な問題になっています。
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「自閉スペクトラム症の人は共感が苦手だ」と紹介されることがよくあります。しかし自閉スペクトラム症の共感能力というポイントについては、普通思われているよりも注意深く理解する必要があります。
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