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ひきこもりの問題が社会的なレベルで大きな問題となっていることは、今や多くの人が知るところでしょう。しかし、そもそもひきこもりの状態に陥ることの一体何が問題なのでしょうか。ひきこもりは問題だと考えている人々も、多くの場合はただ何となく「ひきこもりでいるのは不幸なことだ」「ひきこもりでいるのは悪いことだ」と考えているにとどまり、どういった点で当事者にとって好ましくない結果につながるのかについては、必ずしも考えてみたことがないかもしれません。この記事では、ひきこもりでいることで何が失われるのかを、具体的に確かめていきます。
ひきこもりを続けることによって、さまざまな機会損失が生じることになります。機会損失とは、望ましくない出来事に見舞われたり、失敗したりしてしまった場合に、もしそのような出来事や失敗が生じなかったら得られていたはずの機会や利益のことを言います(類語としてしばしば「逸失利益」とも呼ばれます)。例えば、もし不幸にも交通事故に見舞われてケガをしてしまい、3ヶ月に渡って就労できなくなったとしましょう。この場合、損なわれた身体の健康や治療費などが、事故から直接生じる損失となります。しかし事故による不利益はこれだけではありません。事故に遭わず健康なままであれば今まで通りに今後3ヶ月間も働けていたはずなのに、それが妨げられるのです。この就労できない3ヶ月分の収入が、機会損失として生じているのです。ひきこもりの状態に陥ることにも同様に、直接生じる損失だけでなく、大きな機会損失が伴うのです。
分かりやすいのは、交通事故の例と同様に、就業できないことによる機会損失です。例えば大学生のお子さんが在学中にひきこもりになってしまい、卒業まで余分に3年を要することになったとしましょう。もしその後直ちに就職にこぎつけられたとしても、大まかに見れば、定年直前の3年間分の生涯収入が失われることになります。この機会損失はひきこもりでいる期間が長引けば長引くほど大きなものになります。ひきこもりでいる期間が10年間になれば、機会損失である生涯収入の減少分も、10年分の収入になります。
しかし、把握しやすいお金のことだけが機会損失のすべてではありません。ひきこもりでいることによって、就労の機会だけでなく、直接間接に社交の機会を失っていることにもなります。職場の同僚や学友と、あるいは一般に友人・知人と交わり、人間関係の輪を広げる機会が失われるのです。それによって例えば、恋愛や結婚につながるような出会いの機会も、ひきこもりでない場合に比べてはるかに乏しくなるはずです。中高生の間にひきこもりに陥った場合、もしそうでなかったら大学進学が望めたのに進学を諦めざるをえなくなったのだとすると、大学への就学の機会も失われた(少なくとも遅れた)ということになります。このように、目に見えるお金の損失だけでなく、ひきこもりでいることの機会損失には種々のライフイベント(人生の節目となるような重要な出来事)を迎えるチャンスの喪失や遅れも含まれることになります。
以上で大まかに、ひきこもりでいることの主要な機会損失を確認しました。このように機会損失を具体的に確認したことで、ひきこもりの当事者を抱えるご家族の方は「こんなに損をすることになるのか」と不安になってしまうかもしれません。しかし、問題がどれだけ大きなものなのかを確認することは、事態の改善の第一歩です。漠然とした不安では問題がどれだけ深刻なのか分からず、どれだけコストを掛けて真剣に取り組むべきことなのか、天秤にかけることができないからです。
例えば、問題の重大さを具体的に明らかにすることによって、非協力的な他のご家族の方を説得する材料とすることもできます。例えば、お母様がいち早くお子さんの問題に気づき、ひきこもりを疑ってどうにかしなければと考えたものの、お父様は「そのうち勝手に出てくるだろう、放っておけばいい」と言って協力してくれなかったとしましょう。そうした場合に、ただ単に「ひきこもりは重大な問題なんだ」と言うよりも、「ひきこもりでいることでこれだけの利益が失われるんだ」と具体的に説得すれば、お父様も問題の深刻さを認識してくれる見込みが高まるでしょう。
もちろん、機会損失を(例えば金額にしてぴったりいくらだと)精確に見積もることは難しいでしょう。しかし、細かな金額までは分からずとも明確に分かることがあります。それは、機会損失として生涯収入を見るにせよライフイベントを見るにせよ、ひきこもりの問題への対応は早ければ早いほど良いということです。就労が遅れれば遅れるほど生涯収入は減少してしまいますし、結婚などのようにライフイベントを迎えるハードルも、加齢とともに高くなってしまう場合があるからです。この点を認識するためにも、機会損失という観点からひきこもりの問題の重大性を考えることは有効なのです。
お子さんなどのひきこもりを疑った場合、あるいはすでにひきこもりの当事者を抱えている場合、まずはひきこもりでいることの問題について考えてみて、問題が緊要のものであることを他のご家族の方とともに確認してみましょう。
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