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ひきこもりオンラインハンドブック
ASDとの関係で定型発達者は自分のコミュニケーション能力を過信する傾向があるという問題

自分の能力を超えたコミュニケーションには臨まないという原則には
価値があります

家族関係に悩む依頼者様に当相談室(以下C&C)がお伝えしているアドバイスのいくつかは、原則の形をしています。原則を覚えておくことはとても便利です。迷った時に立ち戻ることができるからです。原則には杓子定規なところもありません。原則はあくまで原則であって、例外がつきものだという点はよく知られているからです。そういった理由でC&Cは可能ならばアドバイスを原則の形に取りまとめています。この記事では、一つの原則をご紹介しましょう。それは「できないことはしない」という原則です。

 

「できないことはしない」という原則の価値は、できるかできないかが不明確なケースでこそ効果を持ちます。というのも、できるかできないかが最初から明確な場合は、誰もできないことをしようとしないからです。自分の能力を正確に測定することができない状況では、無謀なことを試みることが誰にでも起こりうると言えましょう。

 

この原則が役に立つ一つの重要な局面は、コミュニケーションの場面です。コミュニケーション能力は、正確に把握することが難しいものの一つです。何を言いどう振る舞うかという具体的なことだけでなく、そもそも「相手と自分は本当にコミュニケーションできているのか」を把握することからして実は難しいのです。なぜなら、コミュニケーションが上手くいっていないことを悟るためには、言語的な伝達能力と非言語的な伝達能力とが分離されていなければならないからです。もし自分が言葉で伝えたつもりのことと、身振りや声のトーンなどで伝えたつもりのこととを区別できていないと、「相手には前者しか伝わっていないのではないか?」という疑いを持てないからです。ということは当然その場合、本当に相手に前者しか伝わっていなかった場合、コミュニケーションが実は失敗しているという事実にも気づけないことになりましょう。

 

特に本サイトでは、自閉スペクトラム症(以下ASD)の人と定型発達(以下定型)の人との間のミスコミュニケーションを多くの記事で取り扱っています。それは、ASDの人との会話の中で、定型の人が自分のコミュニケーション能力を過大に見積もるという根本問題があるからです。ASDの人との間のコミュニケーションに実は失敗しているということを理解することが難しいものです。それが難しいということも、上で述べた事情によって、あまり理解されていません。そしてコミュニケーションに失敗していることから発生している摩擦が相手に責任転嫁されてしまうという問題もあります。例えば相手が何らかの点で悪意を抱いていると想定する方が、相手との関係での自分のコミュニケーション能力に限界があると想定することよりも、ずっと容易いからです。

 

したがって、ASDの人と定型の人との間のミスコミュニケーション、またはコミュニケーションの失敗一般において重要であるのは、自分のコミュニケーション能力の欠如という形で問題を認識することなのです。そのような認識が得られれば、後は原則の出番となります。つまり「できないことはしない」という原則は、自分が持っていないレベルでのコミュニケーション能力を必要とするシーン自体を避けるべきだという形で具体化されます。

 

もちろんコミュニケーションが現に必要となっているケースでやり取りを避けるべきではありません。原則は常に例外を含みます。しかしながらそれでも、不必要なコミュニケーションも日常生活には含まれており、それを適宜削減することが関係性の改善にとって一般的に重要になるケースがあるということは、確かなことと思われます。

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