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自殺のストッパーとしての観念と実在のギャップ

自殺は観念が実在に追いついた結果だ

実在と観念の区別を用いて、自殺について論じることができます。自殺は、観念体系の中に閉じ込められて、実在を忘れてしまう、むしろ観念体系を実在と取り違えてしまうことによって生じます。このような自殺の分析は、自殺の防止する方法について一つの方針を与えます。まず、実在と観念がそもそも何であるかについて確認しましょう。

 

観念とは我々が思ったり考えたりしたもののことを言います。それに対して、実在は観念を超えているものです。観念に比べて、実在が何であるかを理解するのは難しいかもしれません。実在よりもむしろ観念と実在のギャップについて先に理解するべきです。実在と観念のギャップが最も明白になるのは、我々が何かを計画して上手くいかなかった場合です。もちろん事前に知ることがないやむを得ない事情のために計画が失敗するという場合もあります。しかしもっとよく考えれば分かったはずなのに、と思うことがあるはずです。(そうでなければ後悔も存在することがないはずです。)ここにギャップが見て取れます。ギャップを見るからこそ、我々はかつて考えたことを超えた何かにも我々は気付きます。それが実在です。

 

自殺との関連で重要なポイントは、実在と観念が決して一致することはないということです。簡単に言えば、人間の能力は有限なので、実在と同程度に複雑な観念体系を構築することができないからです。我々の観念は実在に及ばないということが常の姿であると言えます。しかしながら、人はしばしば我々の観念体系自体を実在と誤信してしまいます。「もうお終いだ」という発言はまさに我々の観念体系が実在に追いついたという(誤った)感想を表しています。そして自殺はもうお終いだと思うことによって引き起こされます。

 

つまり観念体系が実在に決して及ばないということを忘れなければ、我々が考え終わることはないということを忘れなければ、自殺という結果に我々が到達することはありません。

 

「自殺という結果」と述べました。「結果」という捉え方、あるいは結果を出すようにしようとする仕方は、自殺と強い結び付きがあります。閉ざされた抑圧的な組織の中で人が自殺してしまうのは、結果を出すように求められることから逃れられないことが原因です。結果を出すように自分や他人に対して求めるのは、実在と観念のギャップが存在しないように振る舞うように求めることに他なりません。それは、我々の観念体系が実在そのものになるということを信じさせることです。すると上で述べたようなギャップ、自殺のストッパーであるギャップが機能しなくなってしまいます。

 

観念と自殺とのこれらの関係を踏まえると、自分や他人の自殺を防止する最善の方法は、実在と観念のギャップに気付かせることです。いきなり(何らかの観点で)より良い観念体系に取り替えさせようとすることではありません。観念体系が実在に及んでいないポイントを上手く示すことによって、ギャップに気付かせることができます。あるいはいわゆるマインドフルネスが妄想に気付かせる働きを持つのも、自分の観念体系が実在から遊離していることに気付かせることを通してであると思われます。いかなる方法によるにせよ、実在と観念体系の間のギャップにまず気付かせ、その上で実在に合うような観念体系に修正していく、ということが着実であると思われます。

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