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自閉スペクトラム症(以下ASD)の人と定型発達(以下定型)の人との間に生じる摩擦の一つは、人間関係にまつわるリスクの見積もりに関係しています。定型の人には、ASDの人が必要以上に可能性の低い出来事について心配しているように見えることがあります。
それは例えば次のようなケースです。ASDの人が何か仕事で些細なミスをしてしまったとしましょう。定型の人から見るとさほど大したことではないから定型の人には特段の心配が必要とは思われないのに、ASDの人は明日会社をクビになるのではないかと懸念していることがあります。その際に定型の人がASDの人のその懸念に違和感を持つといったケースがあります。こういったケースで、なぜ定型の人は違和感を持つのでしょうか?
基本的には、定型の人とASDの人との間で人間関係にまつわるリスクの見積もり方が異なっていることに違和感が起因していると思われます。よって、どのように見積もりが異なるのかを明らかにすることは、重要な意味を持ちます。というのも、このようなタイプの違和感の少なくとも一部は、ASDの人がどのような事情でそのような(定型の人からは奇異に見える)見積もりを行なっているのかを定型の人が知ることによって、解消される可能性があるからです。
他の記事でも解説している通り、定型の人は一定の確率を下回る人間的事象については無視しています。例えば明日ハイパーインフレが生じる可能性は無という訳ではありませんが、定型の人はその可能性をごく低い可能性として捉えているというよりも、むしろ端的に無視していると言えるでしょう。いわば低い可能性は切り捨てされていると言えます。
他方で、ASDの側ではこのような切り捨ての傾向性が定型よりも弱くなっています。したがって、低い可能性を低い可能性としてきちんと捉えてしまう傾向があります。このギャップのために、定型の人にはASDの人が「ありえない」ことを延々と検討している心配性の人に見えてしまうということがあります。まさに定型が切り捨てている可能性であるため、本当は(ごく小さな可能性ではあるにせよ)確かにありうることでも「ありえない」と評価してしまうということです。
ASDの人が定型の人のように可能性を切り捨てられないとすれば、ASDの人が検討している可能性を定型の側で「ありえない」と言って切り捨てるように勧めることは、的外れなアドバイスになる恐れがあります。定型の側では自分と相手のリスクの見積もりスタイルが異なっているということを常に自覚することが求められていると言えます。
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「自閉スペクトラム症の人は共感が苦手だ」と紹介されることがよくあります。しかし自閉スペクトラム症の共感能力というポイントについては、普通思われているよりも注意深く理解する必要があります。
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