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ASDが規範的言明に影響を受けやすい傾向にあるという問題(ASDと定型との付き合い方68

自閉スペクトラム症の人(以下ではASD)と定型発達(以下では定型)とのミスコミュニケーションの一つのパターンとして、ASDが定型の何気ない一言によって定型の予期せぬ影響を受けてしまうということがあります。ここで予期せぬ影響を与えうる定型の何気ない一言の正確な範囲は必ずしも明らかではありませんが、規範的言明に関してそのようなことが起こりやすいと思われます。

 

規範的言明というのは「〇〇べきである」といった仕方で書き直すことができる発言のことを言います。例えば「人は働くべきである」というのは一つの規範的言明です。こういった規範的言明の影響をASDは比較的強く受ける傾向があります。強く影響を受けているのは、規範的言明を実現しようとする精度、あるいは規範的言明からの逸脱を回避しようとする精度が高いことから分かります。

 

もしかすると規範的言明の影響を強く受けることは、望ましいことのように見えるかもしれません。それはある程度まではその通りです。しかし反社会的な規範もあります(例えば「やられたらやり返せ」など)。しかも、どんな規範でも無前提に適用できる訳ではありません。世の中に流通している規範が無前提である場合が多いのは、単純に定型が規範的言明にあまり従うことができないという事情があるためです。ASDは定型よりも規範的言明にしっかりと従ってしまうために、想定よりも規範的言明が効き過ぎてしまうという問題があります。いわば薬が効き過ぎてしまうということです。

 

世の中で流通している言説に人が影響を受けてしまい、しばしばその程度は定型よりもASDにおいて激しくなりうるということに社会的なより多くの注意が必要です。他方で、個人レベルでもこのような事情に気をつける必要性があります。特に親や教師などの指導的立場にある場合、相手方がどれほど規範的言明に従いやすいのか、注意深く観察して規範的言明を発言するべきであると言えます。対象者が予期せぬほど規範的言明に従ってしまって社会的トラブルが発生することを防ぐことは、発言者の注意深さによって初めて可能になると思われるからです。

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