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損得勘定と両義性

両義的であることと一義的であることのギャップは、損得勘定との関係で論じるべき特殊な関係性を持っています。両義的な事柄を把握する能力の低い人は、損得勘定が絡む社会的な場面で、大きな問題を引き起こしかねません。ここで損得勘定というのは、自らの利益や不利益を広く計算して自分の得になることと損になることを区別し、それを他のことの意思決定に混ぜ込むことを指します。なぜ損得勘定と一義性・両義性の話が関係するのでしょうか?

 

そもそも自分の利益を最大化するための意思決定ということは極めて一義的な事柄であると言えます。この意味での一義的な事柄は、他の一義的な事柄と同じように、両義的なことの把握能力が低い人にとって苦手なことではなく、むしろ得意なことの部類に属すると言えるでしょう。普通の人よりも純粋に(経済的)利益を追求することができるので、場合によっては(例えば仲間の利益を確保するポジションに就いている場合など)普通の人よりも有能であることさえあります。ここでは問題は生じません。

 

問題が起きるのは、むしろ損得勘定を混ぜ込むことが想定されているような他の事柄において生じます。例えば、刑罰は、犯罪の実行者が罪に当たるべき行為を行うかどうかを考察する場合に、単純にその行為が行われるべきかどうかだけでなく、その行為の帰結として行為者に刑事罰が課されるということも合わせて考慮するように、犯罪の実行者に求めています。大抵の犯罪は自己の利得を目的としているためにこの点が見えにくくなってしまいますので、テロリストが追求するような思想信条に基づく(がしかし犯罪に該当する)行為を想定しましょう。テロリストがいくら特定の行為が(テロリストの観点から)公共的に望ましいと考えられたとしても、重い刑事罰が下されるのであれば、自らの私的な損を考慮して行為を踏み止まるということが、刑罰の制度設計に組み込まれています。

 

このようなタイプの制度設計においては、自分の損得勘定を意思決定に介在させる両義的な人物が念頭に置かれています。これが問題を引き起こします。比較的両義的な事柄を把握しにくい人、両義的な事柄に左右されにくい人は、制度設計の段階で考察された損得勘定の介在を主観的に経験しません。すると制度設計が想定した通りの行動が帰結しにくいという問題が生じます。さらなる問題は、他人が行為者を評価する際に、また理解しようとする際にさえ、損得勘定が介入していない(していなかった)ということに気付くことが本当に難しいということです。この気付きに欠けると、両義的な事柄を把握する能力の低い人を正当に評価ないし理解することができなくなってしまいます。

 

個別のケースで他人を正しく評価ないし理解することの難しさには留意しておく必要があります。それ以上に社会の制度設計を考える際に、損得勘定を介在させるかといった主観面でのバリエーションを適切に考慮に入れることが重要であると言えます。特に日本では多くの社会的制度がマジョリティの特定の主観的傾向性を前提にしたものになってしまっており、主観的傾向性におけるマイノリティとの間で人間関係のトラブルを生じさせてしまっています。この点の自覚と対策が日本社会の喫緊の課題の一つになっていると言えるでしょう。

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