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ASDと定型の関係性のゴール(ASDと定型との付き合い方56

ASDの人(以下ではASD)と定型発達の人(以下では定型)との付き合い方を解説していると、両者の間の関係性が最終的にどうなっていくのかということについて問われることがあります。ASDと定型との関係性のゴールが何かということが気になるのは当然です。またゴールが何か分かった方が道中の努力も方向性ができてやる気が持続するということも考えられます。しかしながら、ASDと定型との関係性のゴールなどというものはむしろ存在しないと言うべきであると考えられます。この記事ではその理由を解説します。

 

ASDと定型との関係性を理解するために、一つの比喩が有用であると思われます。しばしばASDが定型との間に感じる差異は、文化的語学的な差異にたとえられます。例えば英語の話せない日本人がアメリカに行くと、孤独感を感じることがあるでしょう。ASDが定型達の間で感じる孤独や困難さは、こういった言語的孤独になぞらえると定型にとって理解しやすいかもしれません。比喩はここで終わりではありません。比喩の次のステージは、英語の話せない日本人がアメリカでどのように過ごすべきなのかということによって、ASDにライフハック的な指針を与えることができないか、ということです。

 

英語の話せない日本人がアメリカで行うべきことは、まず英語を話せるようになろうと英語を練習することになるでしょう。ASDも、定型との付き合い方を学ぶことによって、定型が多数派である社会の中で生きやすくなっていきます。ただ、英語を身につけるのに時間がかかる通り、ASDが定型との付き合い方を学ぶのにも時間がかかります。アメリカに行った時に日本語を話せるアメリカ人が助けてくれると、生活が大分楽になるということは想像できると思われます。ちょうど日本語をよく知るアメリカ人が英語を話せない日本人を助けることができるように、ASDとの付き合い方をよく知る定型は、定型との付き合い方を知らないASDを上手く助けることができます。だから、ASDの側だけでなく、定型の側でも対応能力を身につけることが重要であると言えます。

 

さて、関係性のゴールについてもこの比喩を当てはめることができないでしょうか。もしかするとASDと定型との関係性のゴールは、ASDを定型に変化させることであると捉えられてきたかもしれません。しかし比喩で言えばそれは日本人をアメリカ人に変化させることであると言えます。そんなことは(国籍を変更しなければ)できませんし、必要もありません。上の比喩で述べた通り、英語を話せるようになれば十分である訳です。そしてどんなに英語を練習しても、そのことによって英語のネイティブになれる訳ではありません。同じように、ASDが定型に対する対応能力をどんなに身につけても、それによって「定型ネイティブ」になれる訳ではないのです(定型のASD対応能力についても同じことが言えると思われます)。だから、ASDを定型に変化させるという意味のゴールはありません。

 

他方で、英語のネイティブになることができなくても、ほぼ全ての社会的な問題は英語力を向上させることで解決できます。同じように、ASDの社会的な問題は、定型への対応能力を上げることによってほぼ全て解決することができます。だから、ゴールがないと言っても、それは終わりなき能力向上の過程があるとも言える訳です。ゴールがないと言うと少しショッキングに聞こえてしまいますが、対応能力の向上には終わりがないということがより実質的で建設的な事態の捉え方であると思われます。

 

これは人生の終わりまでその問題だけに取り組むということではありません。人生には様々な問題が存在するので、ASDと定型との付き合い方に関する問題がある程度解決すれば、関心は自然と他の事柄に移っていきます。これが比喩によって理解できる更なるポイントです。いくらアメリカで英語が話せないことが問題であると言っても、アメリカで生活していく場合の問題が最後まで英会話である訳ではありません。ある程度英語が上手くなると自然と関心が他の事柄に(日本人が日本で生活している場合に関心を持つような事柄に)移っていくと思われます。社会的な対応能力は一つの能力として、その意義と射程を正確に理解することが重要だと考えられます。

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